中小企業がM&Aを検討するとき、多くの経営者が最初に考えるのは「いくらで買えるか」です。
しかし、経営参謀の立場から申し上げれば、本当に見るべきはそこではありません。
重要なのは、買収資金をどう調達し、買収後にその借入をどう返済するかです。
M&Aは、会社を買った瞬間がゴールではありません。むしろ、買った後から本当の経営が始まります。資金調達を甘く見たM&Aは、買収後の資金繰りを圧迫し、せっかく取得した事業を成長どころか重荷にしてしまいます。
中小M&Aでは自己資金が原則必要
中小M&Aでは、全額借入で買収できると考えるのは危険です。金融機関は、買収対象会社の過去業績、買い手企業の財務体質、買収後の返済原資、経営者の経験、事業計画の妥当性を見ます。
つまり、金融機関が見るのは「買収価格」ではなく、返済可能性です。
特に、これからM&Aによって創業・独立しようとするケースでは、融資のハードルは高くなります。通常の創業融資と異なり、M&Aでは買収代金が必要になるうえ、買収後の運転資金、PMI費用、設備更新、人材維持費、想定外の損失対応資金まで必要になります。金融機関から見れば、「新規創業リスク」と「買収対象会社の事業リスク」が重なるため、自己資金、経営経験、対象会社の収益力、事業計画の実現可能性がより厳しく問われます。
自己資金が十分にない状態で無理にM&Aを進めると、買収後の運転資金、追加投資、人材確保、設備更新、想定外の損失に対応できません。M&Aでは、買収代金だけでなく、買収後の立て直し資金まで見込んでおく必要があります。
活用を検討したい公的融資
中小M&Aでは、日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」など、公的融資の活用余地があります。事業承継、株式取得、事業譲受、後継者不在企業の引継ぎなど、一定の要件を満たす場合には、長期の設備資金・運転資金として活用できる可能性があります。
ただし、公的融資も「制度があるから借りられる」わけではありません。
必要なのは、買収目的、対象会社の収益力、買収後の改善計画、資金使途、返済計画を明確にした事業計画です。
ここを曖昧にしたまま金融機関に相談しても、資金調達は難しくなります。
過度な節税は財務を悪化させる
銀行からM&A資金を調達するためには、買い手企業自身の財務内容が重要です。特に注意すべきは、過度な節税です。
税金を払いたくない一心で利益を圧縮し続けると、決算書上は利益が出ていない会社になります。すると、銀行から見れば「返済原資が乏しい会社」と評価されます。
さらに問題なのは、過度な節税が財務体質そのものを弱くすることです。不要不急の支出、過大な役員報酬、節税目的の保険加入、過剰な設備投資などを続ければ、手元資金は減り、自己資本は積み上がらず、銀行格付けも改善しません。結果として、いざM&Aで資金を借りたいときに、「利益が薄い」「内部留保がない」「返済余力が見えない」と判断されます。
節税は大切です。しかし、行き過ぎた節税は、将来の成長投資力と資金調達力を削ります。M&Aを本気で考えるなら、普段から利益を出し、税金を払い、内部留保を積み、銀行から信用される財務体質を作っておくことが必要です。
事業計画書と借入申込書が勝負を決める
M&A資金の調達では、銀行に対して「なぜ買うのか」「いくら必要か」「どう返すのか」を説明しなければなりません。
そのために必要なのが、事業計画書と借入申込書です。
事業計画書では、対象会社の事業内容、買収目的、シナジー、買収後の収益改善策、売上・利益計画、資金繰り計画を整理します。借入申込書では、資金使途、借入希望額、返済期間、担保・保証、返済原資を明確にします。
ここで重要なのは、夢物語を書かないことです。
銀行が見たいのは、華やかな成長ストーリーではなく、現実的な返済計画です。
赤字会社のM&Aは慎重に見る
「赤字会社を安く買って再生すれば儲かる」と考える経営者もいます。しかし、これは極めて危険です。
赤字には必ず理由があります。売上不振、粗利率の低下、人材流出、設備老朽化、顧客離れ、過大な固定費、前経営者への依存など、買収後にすぐ解決できない問題が隠れていることがあります。
また、「累積赤字がある会社を買えば節税になるのでは」と考えるのも危険です。税務上、欠損金の利用には制約があり、単純に赤字を買って節税できるわけではありません。節税目的のM&Aは、本質を見失いやすい典型例です。
M&Aは、安い会社を買うゲームではありません。
買収後に利益を生み、借入を返済し、会社を成長させられるかがすべてです。
経営参謀としての結論
中小M&Aの資金調達で大切なのは、次の三つです。
第一に、自己資金と借入のバランスを誤らないこと。
第二に、金融機関が納得する事業計画を作ること。
第三に、買収後の返済可能性を冷静に見極めること。
M&Aは、買収価格だけで判断してはいけません。資金調達、財務DD、事業計画、PMI、税務、法務、金融機関対応まで一体で設計する必要があります。
M&Aで失敗しないためには、経験豊富な専門家を早い段階から経営参謀として入れるべきです。
中小M&A、資金調達、財務分析、事業承継、買収後の経営改善まで含めて検討するなら、M&A経験豊富な当事務所・ビジネスデザイン・パートナーズにご相談ください。経営者の横に立ち、買ってよい会社か、借りてよい資金か、返せるM&Aかを冷静に見極めます。


コメント